「あー、給料日まであと三日か…」
磯野ワカメ25歳。
もう、一人暮らしも4年目になる。
お兄ちゃんは食品メーカーの営業マン、タラちゃんは今年大学受験、おおよその人物紹介は出来るけど年末年始とお盆に会うくらいだから、お互いもう随分知らないことだらけなんだろう。
次女の私は就活の時、あの家から出なければならないことを何となく悟り、狛江のアパートに引っ越した。
桜新町は近くて遠い。
派遣の給料でカツカツな生活のこと。憧れの先輩と一夜を共にした後連絡がとれなくなったこと。言えないことが増えるごとにあの家は遠くなる。

―前略 元気でやつてますか。
一段と寒くなり、お父さんは少し咳き込んだりしています。鱈ちやんはいよいよ受験勉強も本番、毎週のやうに模試です。

もうすぐ冬至ですから、南瓜と柚子を送ります。序でに鰹の会社で新発売の冷凍食品も送りますので食べて下さいね。
身体に気を付けて、しつかりがんばるのですよ。
フネ

母さんからの月に一度の荷物。手紙を封筒にしまうその時、タマの真っ白な毛がふわっと舞った。
母さんの手紙は不思議だ。
先輩が最後に言った酷い言葉も、今朝パンプスのヒールが折れたことも、実は全部知っているんじゃないかと思ってしまう―ごくごく当たり前な手紙なのに。
湯船に浮かんだ柚子の香り。今日はあの家もここもおなじ、同じ匂い。


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