仕事の帰り道、特に寄り道するところもないので、ワカメは早足で歩いていた。
ふと見ると、家の門の前に見知らぬ背の高いメンズが立っている。

ウホッ…

「おい、キミ…」

ワカメが声を掛けると、メンズは弾かれたように顔を上げた。

「あ…ワ、ワカメちゃん?!」
「左様だが」

ワカメは肯定しながらも、こんないい男知り合いにいただろうかと必死に記憶を辿る。
思い当たったのは、ただひとり。

「…イクラか?」
「そうだよ!分かってくれて嬉しい!
どうしてもワカメちゃんに一目会いたくて、今日だけこっちに帰ってきたんだ」

あのクソチビだったイクラが…。
ワカメは妙な胸の高鳴りを感じた。

「でもね、ワカメちゃん」
「なんだ」
「僕、もうイクラじゃないんだよ。改名したんだ」
「なんとな」

理由を問おうとして、やめた。
あの可愛いかったタラオが暴走族「魚雷男爵」の総長にまでなった原因は、その滑稽な名前にあったからだ。

「イクラって、サメの子供でしょ?
でも僕の父の名前はノリスケ。
だから学校でずっといじめられててさ…
サノバビッチ、サノバビッチって…辛かった」

オ、オゥフ
残念ながらそれはキャビアだ。


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