「甚六さん…?!」
甚六は苦しそうにうめきながら、三人を仰ぎ見た。
街頭のうすぼんやりとした灯りでしか確認できないが、唇から血を流しているようだ。
「い…イクラ…やんか…。
お前っ、ハア…、『魚一番鬼』の…イクオらしいやん…
だ、騙し、やがって……
おかげで俺…ハアハア、こんな目にお、おうたわ…」
甚六は息も絶え絶えに、イクオたちを非難する。
イクオは居たたまれなくなり、甚六のそばに座り込む。
「…ごめん甚六さん…!まさかこんなことになるなんて…」
「イクオさん、甚六さんは、もう…」
タマが悲痛の面持ちでイクオの肩をたたくが、イクオは立ち上がろうとしない。
「…なんであのことがタラちゃんに伝わったんだ…?甚六さん、誰が言ったの…?」
「知らんわ、ボケ…」
イクオは困惑しながらも考える。
僕を『魚一番鬼のイクオ』だと知っている誰かに、甚六さんと話しているところを見られていた…?
ここは敵陣の町だ。もっと慎重に行動するべきだったんだ…!
イクオの頬を後悔の涙が伝う。
「おまえなあ…、俺を…こんな目に合わせたからにはよお、
俺の武勇伝、後世に…つ、伝えてくれよ…」
「甚六さん!なに言ってるんだよ!
僕と一緒に、タラオに仕返しに行こう…!ねえ!」
「イクオよ…俺はなあ、そんな姑息な男で…終わりたくないねん…
すまんのう…お前らだけで、行ってくれや…」
「甚六さん!駄目だ!甚六さん!!」
「ほな…そろそろ、お別れや、な…
泣くなや……おまえら……
ぺいす………ぺい…ぺぃ…す…」
甚六の身体はアスファルトの地面にがっくりと倒れ、動かなくなった。
「じ、甚六さん!?甚六さん!甚六さん…っ!!ああああ…!!」
タマに腕を引っ張られるまで、イクオはその場に座り込んだまま呆然としていた。
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