遠くから、微かにお囃子が聞こえてくる。ワカメは自室で夏休みのドリルをしていたが、
待ちきれなくなって、部屋を飛び出して、台所に向かった。

「母さ〜ん、早く浴衣着せて〜。」

ワカメは、ノリスケ一家を迎える準備をしている母に言った。
フネは割烹着で手を拭きながら、出てきた。

「ハイハイ、今着せてあげますよ。」

今年、新しく浴衣を買って貰った。薄いピンクの生地に、朝顔模様の浴衣だ。
毎年、ワカメは男女数名ずつのクラスメイトで、お祭りにでかけていた。

でも、今年は…。

「ワカメちゃん、お祭り一緒にいかない?」

夏休みの登校日、掃除が終わり、一緒にゴミ捨てをしている時に 小学校からの幼なじみの堀川が、少し照れながら誘って来た。

「うん。良いよ。いつものメンバーでしょ?」
「違うよ…僕、今年は二人きりで行きたいんだ…ワカメちゃん嫌?」
「…嫌じゃない。」

ワカメが首を横に振ると、堀川の顔はパッと明るくなった。

「ホント!?やったー!」

堀川は、ゴミ箱を掴んで、渡り廊下を一気に駆け抜けた。

「5時に、中学の校門で待ってるからね!」

堀川は振り返ると、満面の笑みを浮かべて叫んだ。


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