「ちょ…なんで泣い…」
「掃除行ってきます」
トイレの個室に入り、泣いた。ポケットに手を入れると、カオリから貰ったクリーム。
カオリみたくなりたい。バイトなんか辞めて私も一流企業の受付に座ってたい。
毎日秋色ファンデのメイクとゆるふわ巻き髪に2時間かけて、モテ系白ニットを着て、女らしいヒールを履いて出勤したい。
同僚とランチのパスタを食べながら新作コスメやスイーツの話をしたい。

好きな人から告らせる女になりたい。

頭に浮かぶのは磯野くんではなく、中島くんだった。


いつまでもフロアに戻ってこない私を心配して、中島くんが見に来た
「ねぇ、泣かれても困るよ。体調悪いなら言って。今日はもう帰っていいからさ」
「はい…」

こんなとき、私に自信があれば。中島くんの袖をつかんで上目遣いで見つめて好きだって言えるのに。
便所紙で鼻をかみすぎたせいで皮がぼろぼろに剥け、真っ赤な目でみっともない私じゃ到底無理だ。


「もうちょっと待って〜」
「まだ見るのかい?どれも同じに見えるけどなぁ」
デパ地下で試食をしようと思って店に入ると1階の化粧品売り場で仲よさげなカップルを見つけた。
カオリと磯野君だ。
「男の人ってなんでわからないのかしら〜女の子はいつだって綺麗でいたいんだからぁ」
「さっきからもう2時間も同じ色見てるじゃないか」
「ブランドによってノリ方とかパールの具合が違うのよ、もうっ」
「わかったわかった。ちょっと休憩してるから」

やばい、こっちに来る。
磯野くんは背がグンと伸びて、キリッとした細身スーツに身を包んでいた。
「あれ?もしかして早川さん?」
「え?早川さん!ついにコスメに興味持つようになったのぉ?」
カオリまで来た。

「いや、コスメじゃなくて…漬物を…」
「漬物って〜笑。ていうか鼻の頭剥けてるけど…この前のクリームもう使い切っちゃった?あそこのブランドだよ♪」
カオリに連れられてそのブランドの前に行くと、同じクリームの大きいバージョンが売っていた

¥20,000

「か、カオリこんな高いの使ってるの?!」
「見られる仕事だからね〜このくらいの使わないと女の子として失格かなって。あ、でも他のは5000円くらいの安いのだよ」

磯野くんは私たちを「女ってやつは」って顔して見ている。私はこんな高いの興味ないのに…。
それともあれは、「美貌に気を使う女の子は素敵だな」って表情なんだろうか


続き
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送