正直、鬱陶しかったのでカオリの手を振り払った。
「お母さんに買い物頼まれてるの。またね。クリームはまだ残ってるから」
「あら…そう。またね」

地下の生臭い魚屋や漬物屋の前を独りで歩きながら、また涙があふれた。
品定めしてる小太りなおばちゃんも、ヨボヨボのおじいちゃんも、みんなリア充なんだな
結婚して子供産んで…「今日はめんどくさいから惣菜でいっかー」なんて言いながら…


「半年間お世話になりました」
「ああ、お疲れ様。夢の方、頑張ってね。エプロンは洗濯して持ってきてね。誰も居なかったら事務所に置いとけばいいから」
ずいぶんあっさりした最後の出勤。私が辞めると知らない人がほとんどだろう。
「早川さん、来月のシフト出てないスけど」
「堀川くん、迷惑かけてごめんなさい。私今日で辞めるから」
「は?聞いてないスけどwまぁ早川さんいなくても変わんないかwたまにトイレ掃除しに来てもいいスよ」

今日は中島くん、休みか…休みって言っても会社の研修かな。
事務所のドアに張り紙がしてあった。

『☆中島リーダー送別会やります☆
○月○日 居酒屋 太平洋
来る人は名前書いてね〜(o^∇^o)ノ』

送別会…。今日で辞める私が行ったら場違いだろうか。
勇気を出し、震える手で空白に自分の名前を書いた。

―居酒屋 太平洋
「あれぇ早川さん来たんだ〜席ある?」
「辞めちゃったの知らなかったよw」
「あ、あの急だったんで挨拶できなくて…すみません」
「早川さん来てくれてありがとー。何飲む?」

一度意識すると、止まらなくなるのが喪女。
「あ、カシスオレンジ…」
カオリに聞いたんだ。モテ子は甘いカクテルしか飲まないって。

「タラちゃんのこと知ってる?あそこのゲーセン出禁になって、今は家に引きこもってるんだって。
なんかネトゲにハマっちゃったみたいでさ。代わりに俺に18禁ゲーム買って来いって命令してくんだよね」
「あんなに素直な子だったのにね」
「今度からそういう素直な子たちを落ちぶれさせるゲームを作る側になるわけだけど…複雑な気持ち」

中島くんは相変わらず笑顔で接してくれる。脱喪するならこの人と一緒がいい。
私はほろ酔い気分の中、中島くんのメガネ越しの優しい目を見ていた。

「じゃあほんとにお疲れ様でしたー就職しても頑張ってください!」
中島くんに花束が渡される。リア充大学生たちがデジカメで写真を撮りまくる。私はただそれを眺めていた。


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