「メールありがとう、面白かったよ。
…中島くん」

予想通り、時間ぴったりに到着した男を迎え入れたタラオは、開口一番そう言った。

「『魚一番鬼』の総長が、あの波野イクラだったなんて、ねえ…」

タラオはソファに深く腰掛け、愉快そうに笑った。

向かいのソファでは、細いメタルフレームの眼鏡をかけた中島が足を組んでいる。

「おや、存外楽しそうで何よりだ。
もっとも俺は何の因果かと思ったが…
関東2大として名を馳せる族のトップ同士がまさか、かつての旧友同士だったなんてよ」

「君は楽しみじゃないの?
こんな潰し甲斐のある相手、いないよ」

必死に笑いを堪えているような不気味な声色でタラオが言うと、中島もそれに応えるように唇の端をつり上げる。

「そりゃ楽しみさ。
ただ、イクオも考えなしにこの町に乗り込んで来るほど馬鹿じゃねえだろ、って話だよ」

「どうだろうね…
ワカメと一緒にいるあたり、案外、単純なことしか考えてなかったりして…」

中島はしばらく考える素振りを見せたが、タラオならば相手の策にそう易々と嵌るようなことは無いと踏んだのだろう。
顔を上げ、辺りを見回した。

象牙色のブラインドが、横縞に切り取られた西日を部屋に寄越している。

「…そういえば、甚六は?」

タラオのコバンザメのような存在の甚六がいないなんて、珍しいことだ。

「ちょっと席を外してもらった」

「それは…何か意図があるのか?」

極悪非道な謀略を聞きたがっているような中島の口ぶりに、タラオは吹き出した。

「別に君が考えてるような謀りはないよ。
ジン君は馬鹿で単純だけど、時にそんなやつこそが凄く役に立つ駒になる。
馬鹿とハサミは使いよう、ってね」

「ほう…」

中島は意外そうに、しかし感慨深げにうなずく。

「ただ、ちょっとでも俺の足手纏いになったときには、」

タラオは甚六の淹れたドリップコーヒーを一口飲み、続けた。

「切るまでだけどね」


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