「へえ…ジン君が、波野イクラの手玉に取られるなんてねえ…」
タラオは特に憂う様子も無く、クスリと笑って見せた。
手にしたバーボンのグラスの氷が涼しげな音をたてる。
「大した問題ではないと判断しましたが、念のためご報告をと」
男は慇懃に礼をし、身をひるがえした。
「…残念だけど、ジン君とはお別れになっちゃうなあ…
使い勝手のいいコマだと思ってたんだけどねえ」
タラオは独り言のように、しかし男に聞こえるように呟く。
男は振り向き様にしばし考え、うなずいた。
「左様でございますか」
「うん…。潜入ありがとね、―――タマ」
タマはいいえと言う代わりに、軽く微笑んだ。
「波野イクオの動向は、すべて私にお任せください」
そう言って眼鏡を持ち上げ、タマは部屋を去った。
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