次の日の夜中、タラオの根城に攻め込むため、イクオはワカメとタマを引き連れて磯野家を出た。
昨夜は寝る間も惜しみ議論を重ね、最終的に最良ともいえる計画を練り上げたのだ。
「あとはセキュリティの問題ですね」
タマが小さくささやく。
なにしろこの町の夜はとても静かなのだ。
少しでも騒がしくすると、警察を呼ばれかねない。
「セコム、ついていそうだな」
ワカメも小さな声でイクオに耳打ちをする。
「暴走族のアジトにセコムか…。どうだろうね」
暴走族、とはいっても『魚雷男爵』がこの町を暴走していたのはもう随分前の話だ。
今では、バイクのエンジン音などちっとも聞こえない。
甚六から聞き及んでいる通り、『魚雷男爵』は会社を設立するつもりでいるのだろう。
どういった会社なのか甚六は知らないようだったが、タラオはどうやら裏社会との癒着があるようだ。
金融業か、もしくはもっとあくどい商売…どのみち堅気の会社ではあるまい。
だからなおさら、なにかと敵対している『魚一番鬼』の存在が疎ましいのだろう。
会社を建てる前に邪魔な存在は消しておこう、といったところか。
「…待ってください」
突然タマが手を広げ、二人の歩を制した。
「どこからか声が…」
そう言われ耳をすますと、確かに人のうめき声のような音が聞こえる。
「なんだろう…。タマ、どこからか分かる?」
「はい。路地裏の入り口…ゴミ捨て場の近くです。そこに男性と思しき人影が…」
暗闇では、眼鏡の奥の目が緑色に光って見える。
猫ってすごい。イクオは思った。
イカが食べたい。ワカメは思った。
三人が慎重に歩み寄ると、倒れ、うずくまっている人影はなんと、
甚六であった。
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