「…っていうことなんだ、ワカメちゃん…
信じてもらえたかな…?」

水槽の乗ったテーブルをはさんで対峙し、イクオはワカメに会いに来た経緯を大まかに話して聞かせた。

「なるほど、実に興味深い話だ…
なあ姉さん?」

「あ、ワカメちゃん、…サザエさんに聞こえちゃうとまずい話だから…
っていうか聞こえてんの?」

イクオが万が一のためワカメを制するが、声には感情がこもっていない。

「イクオ、姉さんも大変興味深いと言っている」

「あー…聞こえちゃってるんだ…
あのー、ちょっとこういう言い方は失礼かもしれないんだけど、言っていいかな?」

怪訝な顔のワカメをよそに、イクオは軽く咳払いをし、続ける。

「ヤドカリって耳あんの?
ていうか、何でサザエさんの言葉が聞こえないのかな僕には?
それはヤドカリだからなんじゃないのかな?!
あ!また泡出てる!ねえ!ほら!
ワカメちゃん!ヤドカリが貝殻から身を乗り出して僕を見ている!ヤドカリが!
ああ…!ワカメちゃんがまた目を背けている!」

「イクオ、大人になれ…」

「…ちくしょう…」

タラオは言いようのない怒りに拳を握り締めた。

その時、廊下の方で誰かが豪快なくしゃみをするのが聞こえた。


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