フネは手ぬぐいで手を拭きながら、ゆっくりと床に倒れこんだカツオを見た。

「もうすぐ夕食だというのに、摘み食いとは感心ならないねぇ。」
「ふ…なあに。揚げたてを拝借しようとしたまでよ。」
「面白い。やる気かい。」
「母さんも、もう年だ。手加減してやるよ。」
「何を小僧が生意気に。私はまだ看板はおろしてないんだよ。」

二人は、一定の距離を保ちながら、相手の出方を伺う。
台所を、つむじ風が通り過ぎた。攻撃の最初の一手を出したのは、フネだった。
懐から取り出した、無数の菜ばしをカツオ目掛けて投げる。
カツオは、後方へと宙返りし、リビングの畳へと着地した。

「秘儀!畳返し!」

たちまち畳がそそり立ち、カツオを守る壁となった。
そこへ、無数の菜ばしが突き刺さる。

「…腕をあげたねぇ、カツオ。」
「こっちもいつまでも、やられっぱなしという訳にはいかねぇ。」
「私も久しぶりに、本気を出そうかね。」
「こっちも毎日血の滲むような特訓をしてきたからな。今日は勝ちに行くつもりだ。」
「…丸腰で、どうやって勝つつもりだい。
 今のお前は、敵の本丸に鎧も着ず、竹やり一本で戦いを挑むようなものだよ。」

フネが、出刃包丁を構えた。刃の先が、冷たく光る。
その時、カツオは不適な笑みを浮かべた。勝手口を、何者かがノックした。

「ちわっす、三河屋です。カツオ君から、注文があるとお電話頂いたので…。」
「ちぃっ、刺客とは卑怯な。」
「何を言うんだ母さん。今の世の中、力が全て、勝った者が正義だ。
 手段に卑怯も何もない。」
「その悪知恵が働く所なんて、サザエそっくりだよ。」
「奥さ〜ん、開けますよぉ?」

勝手口のドアが開く。フネは、そちらに視線をやった。

「…勝った!」

カツオの手が、から揚げまで数センチのところまで、迫っていた。


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