「…お兄ちゃん…あたし、お姉ちゃんの入院準備してくるね…」

―――それから、真実を明らかにしてくるね…
その一文は、あたしの心にコトリとおちた。

「ワカメちゃん…そんなのわたしが…」
「いいの。お姉ちゃんの部屋、分かりにくいし、あたし父さんの様子も見たいから…。ありがとうタイコおばさん」

そう言うと、あたしは作り笑いを浮かべ
小走りに駆け出し、エレベーターに飛び乗った。
『閉』のボタンの文字が薄くなっていた。

タクシーがうまくつかまり、スムーズに家に辿り着いた。
玄関は暗く、見慣れた家のはずなのになんだか不気味に思えた。
この家には皆が団欒できるような昔の温かさは…もう…


「ワカメ…姉ちゃん?」

「きゃ!…びっくりした…イクラちゃん…」
「ワカメ姉ちゃん、何やってんスか!」
「何って…お姉ちゃんの着替え、取りに」
「ちげーよ!そんなことじゃなくて
…女の子がこんな時間に一人で出歩くなんて危ないだろ」

―――女の子…
彼氏いない歴=年齢のあたしにはくすぐった過ぎる言葉だ。

「…ふふっ、やだイクラちゃんったら…うふふ」
「な、なんか俺変なこと言った…?」
「ふふっ、ごめんごめん…。もぉ、イクラちゃん、あたし26よ?大丈夫よ」
「・・・・そーゆー意味じゃ…ねんだけど…」
「…え?」
「……」
「……」
「べっつにィ!…なんでもなーいよ」

イクラちゃんは誤魔化すようにそう言った。
……イクラちゃん…。
そんなこと、気のない、ましてモテない女に言っちゃ…ダメだよ…。


次へ
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送