玄関を開けると、ラメのついたミュールやら、ピンヒールやブーツばかりが散らばっていた。
あたしはそれらをさっと隅に並べ、イクラちゃんに言った。
「…あがって?」
「あ、うん…オジャマシマス…」
「ふふ、昔は“おじゃまします”なんて言わずに上がってきてたのにね(笑)」
「だーからぁ、ワカメ姉ちゃん、俺のこといくつだと思ってんスか〜(笑)」
「ごめん〜。さ、あがってあがって」
「…コレ全部ワカメ姉ちゃんの靴?」
「やーねー、あたしこんな派手なの似合わないわよー」
「いや、この数パねぇなと思って(笑)」
「…パ、ねぇ?」
「あー、ハンパねぇなって意味。ごめん」
「ふーぅん…」

やっぱイクラちゃんは現代っ子なんだな。
あたしそんな言葉使ったことないや。
“超”とか“むかつく”とか…そんな言葉ですら使ったことがないことに気付いた。
…ううん、意識的に使うのを避けてたのかな。
中学に入ってからは、よく「イイコぶっちゃって」「内申点数稼ぎ」とか陰口言われてた。
どっちにしろ、あたしみたいな地味な女には使う機会すらないけど。


「…マスオおじさん、会社にはもう…いなかった」

イクラちゃんが言いづらそうに口を開いた。

「飲み屋とかも覗いてみたんだけど…見つかんなくて…」
「…そこまでしてくれたの…
…ありがとう。
ごめんね…、マスオ兄さん…もう帰ってこないよ…」
「…………」
「マスオ兄さん、可哀想だもん」
「…………」
「この家じゃ、居場所なくて、可哀想だもん」


―――――違う…
本当は…マスオ兄さんにも助けて欲しかった…
自分の息子を…叱って欲しかった…
ウラハラな言葉が 口を吐く。


バンッ!
勢いよく襖が開いた。

「ちょ、まぢ何やってんの」

不機嫌な声。眠たげに大きな目をこすりながら出てきた。
キャミソールに下着一枚という格好に、同性ながらも赤面してしまう。

「今何時トカ分かってます?オネーサン。
ウチら明日もフツーに平日なんだけど?好海のベントーも作んなきゃいけないし。
まぢありえないんだケド。」

冷凍食品と惣菜だらけの好海のお弁当が目に浮かんだ。


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