『おかあさん!どーして丈直してくれなかったのよぅ!
今日はスズコちゃん達とお祭りに行くって言ったじゃない!』
『ごめんねワカメ、もうこの浴衣じゃ小さいと思ってね、
サザエの小学生の時の浴衣を来てお行きなさいな』
『紺色の浴衣なんてイヤ!あたしはこのピンクのがよかったのに!母さんなんて嫌いよ!』
『ワカメ…!』




これを読む頃には、母さんもう元気じゃないかも知れません。
だから、あなた達きょうだいに手紙を書くことにしました。
本当は、直接話したいのですが
母さん、笑顔で話せる自信がないわ。
許してちょうだいね。
ワカメ、覚えているかしら?
あの時のピンクの浴衣と同じ生地を探して仕立て直しました。
あの日は結局お祭り行かなかったのよね。ごめんよワカメ。
これを着て、ワカメの好きな人とお祭りへ行ってください。



―――――母さん…!
あたしは浴衣を抱き締め、母さんの匂いにうもれた。
涙がこぼれる。
母さん…、母さんごめんなさい、ごめんなさい。
お母さんとお父さんが作った暖かい理想の家庭を
あたし達は壊してしまった。
ごめんなさいごめんなさいごめんなさい……。



遺書にはタラちゃんが無精子症になった経緯が綴られていた。
タラちゃんが13才のとき、お姉ちゃんとタラちゃんがおたふく風邪にかかった時に
タラちゃん小児科に連れてった母さんは、タラちゃんが無精子症になったことを聞かされたという。
タラちゃん本人には伝えたけれど、
お姉ちゃんには言えなかったこと…。


お姉ちゃんはきっとこれを読んだのね…。
だからショックを受けて…。
そして真実を知っていたタラちゃんは…
お姉ちゃんに悟られないように、尚更子供が欲しかったのかも知れない。
母さん、お姉ちゃん、タラちゃん…
母と子の不器用な思いに、あたしは身体が締め付けられた。

4枚目が最後のようだ。
母さんからの手紙が終わってしまう寂しいような気持ちと
母さんの綴る優しい言葉の続きを知りたい気持ちが
交錯する。
4枚目をめくる。


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