あんな話、聞くんじゃなかった…。
あたしはとんでもない秘密に立ち入ろうとしているのかも知れない…。
独り背負ってしまった重たい十字架があたしの足どりを一層重くしていた。
花沢さんと別れ、家についたのはもう日付が変わる時刻だった。
こんな時間に家に帰るのは初めて。
父さんに怒られちゃうかしら…。
「ただいま…」
「ワカメ!何やってたんだよ!」
出てきたのは意外にもカツオお兄ちゃんだった。
お兄ちゃんは海山商事に就職したものの、
去年、同級生の中島くんとIT会社を立ち上げると言って会社を辞めてしまった。
入社の際、口利きしてくれた父さんに勘当同然に家を追い出されたのだ。
「お兄ちゃん!来てたんだ?今日ね、花沢さんに」
「いいから来いよ!」
お兄ちゃんはあたしの腕を強く掴み、居間に連れて行った。
「お兄ちゃんどうしたのよ?」
「…姉さんが入院したよ…。携帯に電話があったんだ」
「え…?ど、どうして…、事故?!お姉ちゃんどうしたの?!」
「しっ!落ち着けワカメ!…父さんショックで倒れて寝てるんだ」
「………」
「姉さん、裸足で家を飛び出してさ、財布も持たずに魚屋さんで魚を盗ったんだ…。
それで…警察に引き渡されたんだけど
もう…皆が知ってる姉さんじゃないのは一目瞭然だったって…。
だから…病院に…。
タラちゃんが好きだった鮭を…盗ったんだってさ…。
姉さんは…姉さんは…」
お兄ちゃんの声がつまる。
頭が混乱する。
お姉ちゃん…。
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